講義ノート:
ホロコーストとは何か?
誰がやったのか?
どこで、どのように行われたか?
なぜか?
−それらの諸現象・諸事実の背後にある厳然たる世界史的問題(人類の到達点の問題)は何か?人類は今日、どこまで「ホロコーストの論理」を克服しているか?−
はじめに
−戦後60年間の信頼されるドイツの構築は、ドイツ国民の自由と民主主義の発達、福祉国家建設の努力、そして「過去の克服」の不断の闘いとその成功による、しかし、ドイツ人だけの努力ではなく世界の人々・諸国家の努力とあいまって−
1.序論
−ネオナチ・アウシュヴィッツ否定論等の世界的諸潮流と科学的歴史研究の課題・研究史の動向−
参考:映像資料「ホロコーストを否定する世界の人々」
映画『ショア-』の衝撃−被害と加害・傍観のたくさんの生存者の直接体験の厖大な集積・生の声の迫力: しかし、「被害の側」からは見えてこないもの、歴史科学が明らかにすべきこと−
最近、NHKで放映された(8月中旬5回)BBC政策の「アウシュヴィッツ-解放60周年記念」225分のすぐれた番組「アウシュヴィッツと最終解決」。このドキュメンタリーも歴史の忘却・歪曲・そして否定に対抗しようとするもの。
しかし、アウシュヴィッツ、収容所に視野を限定することで、かえって、アウシュヴィッツの背後にあったことはわからない。「よい親衛隊員もいた」といったことになる(軍需工場労働力要員として助かったユダヤ人の話)・・・全体のユダヤ人の運命とそれを規定した重要な条件群がみえてこない。したがって、歴史科学による背後の理解、歴史の大局の理解が必要。
2.20世紀のドイツと世界:第一次世界大戦の原因と結果
−帝国主義・植民地主義の列強の世界的闘争、他方、反帝国主義・反植民地主義・民族独立等の民主主義諸運動−
3.ヒトラー・ナチズムの思想構造
−世界大戦の論理、第一次大戦の「敗北の克服」・世界強国の建設と人種主義的民族帝国主義の論理−
4.ヴェルサイユ体制下のドイツ経済と相対的安定期のドイツ政治
5.世界恐慌・政治的急進化とヒトラー・ナチズムの権力掌握
−保守・極右・軍部・財界の同盟、左翼弾圧・全権委任法、そしてナチ左派切捨て(レーム事件・粛清)−
参考:日本帝国主義・勢力圏植民地拡大の動向とゾルゲの分析・電報(『国際スパイ・ゾルゲ』、『獄中手記』、ほか)
6.「よい時代」・「神話の形成期」=軍需主導の景気回復・戦争準備と世界強国への道
−ベルリンオリンピック・4カ年計画と対外的緊張・日独伊防共協定−
7.「平和的」領土拡大と経済の軍事化の危機
−「民族自決」権の主張・ナショナリズムの高揚と併合:オーストリア併合・ズデーテン問題・ミュンヘン危機と「水晶の夜」−
8.独ソ不可侵条約(ノモンハン事変)・電撃戦勝利とヨーロッパ全域の支配
−日独伊三国軍事同盟−
9.対英攻撃挫折・対ソ奇襲攻撃・リトアニアなどでのホロコースト
−バルバロッサ指令と東方大帝国建設の基本戦略・ソ連分割支配−
10.ソ連の抵抗・電撃戦の挫折・総力戦化とヨーロッパ各地の抵抗機運・「背後の匕首」醸成状況
11.「ヨーロッパ・ユダヤ人問題の最終解決」の準備命令ゲーリング令(41年7月31日)と西欧ユダヤ人の臨時的移送政策への道−1941年9月「総統のご希望」と移動型ガス室−
12.真珠湾攻撃・対米宣戦布告・世界大戦とポーランド・西欧ユダヤ人絶滅政策への移行
−「冬の危機」・戦時経済の総力戦化・反ドイツ抵抗運動とヴァンゼー会議 −
参考:映像資料「ヴァンゼー会議」、記念館
13.1942年以降の大攻勢・敗退の連続・銃後の危機とガス室の建設・増設
−ハイドリヒ暗殺・ヒムラー陣頭指揮、固定型ガス室の実験(臨時的建設)から大規模火葬場の建設・増設へ−
14.ヒトラーの最後
−ドイツの軍事的敗退・「ヒトラー暗殺・クーデタ計画・7月20日事件」・難民追放・東西からの連合国によるドイツ全土の占領・ソ連によるベルリン包囲−
15.まとめ:戦勝国側の2大陣営(対立的な政治経済原理)と20世紀後半の冷戦体制
−21世紀の地平: 第二次大戦の悲劇の忘却・誤解・歪曲・否定を乗り越えて−
できれば、みなさんも、ポーランドのアウシュヴィッツを訪れて、あるいは、ドイツ・ミュンヘン近郊のダッハウやワイマール郊外のブーヘンヴァルト、ベルリン郊外ザクセンハウゼンなどの収容所をじっくり見学して、ドイツ人がいかにきちんと過去と向き合おうと努力(ブラント)しているか、その到達点と世界史を考え直してみてください。
しかも、それはけっして何の反対もないわけではなく(民族主義・極右勢力による反対)、対立する歴史像・対立する世界像との対決がつねに求められているなかでの過去の直視です。
われわれには、すなわち、歴史研究者・歴史教育者にも諸君のような学生にも、過去の忘却・誤解・歪曲・否定を乗り越えて、不断に歴史認識を正確化し、深く広く立体的にしていくことが求められています。
since Aug.18.2005